若年性認知症の特徴と病気とともに生きる方々の現状(2019年 4月会報より)

2019.06.17会報

山口喜樹認知症介護研究・大府センター
愛知県若年性認知症総合支援センター
山口喜樹

皆様、こんにちは。あいち健康の森にあります認知症介護研究・研修大府センターの山口喜樹と申します。私は今、若年性認知症とともに生きる人とそのご家族のサポートを行っています。これから6回に渡ってご本人やご家族、まわりの人々や専門職も含め、どんな悩みや課題があって、どのようなサポートがなされはじめているかをお伝えしていきます。

 

最近、「若年性認知症」という言葉や文字を聞いたり目にしたりすることが増えてきました。マスコミでも取り上げられる機会が多くなりましたし、テレビドラマの放映などもありました。まずは、「若年性認知症とはどんなものなのか」という話から始めます。

若年性認知症とは、65歳未満で発症した認知症のことを言います。発症の年齢は平均51.3歳で、約3割は50歳未満で発症しています。認知症は、加齢とともに有病率があがっていきます。高齢者の認知症に比べると数は少なく、愛知県内では2,500人程度と推測されています。男女比について、高齢者の場合には、長寿である女性の割合が高くなりますが、若年性認知症は男性にも多いのが特徴です。

認知症は、記憶障害などの症状が持続している状態を指しますので、その症状を引き起こす原因となる疾患があります。高齢者の場合には、アルツハイマー病(アルツハイマー型認知症)の割合が多いですが、若年性認知症の場合には、アルツハイマー病以外にも、脳梗塞や脳出血の後遺症や頭部外傷の後遺症、前頭側頭葉変性症(前頭側頭型認知症)や飲酒によるアルコール性認知症など、高齢者の認知症に比べ、原因となる疾患が多様なことも特徴です。

 

若年性認知症の場合、多くの人が仕事や家事・子育てをしている時期に発症しますので、認知機能が低下すれば、仕事などに支障が出て気づかれやすいと考えられます。しかし、仕事上でミスが重なったり、家事や交友が上手くいかなくなったりしても、年齢が若いためか認知症のせいだとは思わないことがあります。疲れや更年期障害、あるいはうつ状態など、ご本人もご家族もまわりの人々も他の病気と思い込みやすく、そのために医療機関の受診が遅れたり、誤った見立てのまま時間が過ぎたりすることも少なくありません。

年金や貯蓄等で生活している時に発症する高齢者の認知症と比べ、若年性認知症は、住宅の購入や子どもの進学など、多くのお金が必要な時に発症します。認知症によって仕事が続けられず、やむを得ず休職や退職する方も多く、収入が減少する可能性があります。経済的問題から進学をあきらめたり、親の認知症のために結婚をあきらめたりするケースも少なくありません。

高齢者の認知症の場合には、子が親を介護することが多いですが、若年性認知症では、配偶者が介護者となる場合が多く、時に親の介護と重なり、複数介護となる場合もあります。シングルの方の場合には、高齢の親や兄弟姉妹が介護者となるケースもあります。病気になったご本人にとっても、介護をするご家族にとっても、甘える先を失う子どもや頼りにしている人を失う友人や職場等、若年性認知症は誰にとっても年齢相応ではなく、受け止めにくい事実として目の前に大きく立ちはだかります。

 

数が少なく顕在化しにくい若年性認知症ですが、ご本人やご家族だけでなく、友人や職場にも深刻な悩みや困難があることは想像いただけたことと思います。暗い話で終わりそうですが、最近は若年性認知症を患っても、失うことを出来るだけ少なくするような新しい生き方を選択される方々が出てきました。それがどんな生き方で、それをサポートする役割の人々は誰なのか・・・。次回は、そのような話から進めたいと思います。       (つづく)