会報

【連載】介護家族をささえる (2020年2月会報より)

3 充実期

<家族支援プログラム>

これまで名古屋会場、知多ブロック、三河ブロック、若年交流会と毎月多くの“つどい”を開催してきた。しかしやればやるほどに、その支援の限界を感じていた。“つどい”はいつでも自由に来ることができるという利点はあるが参加を強制できないので、継続的に出てきてもらえないことが多く、その後のサポートができず、中途半端で終わってしまう。また、久しぶりに参加があったとしても、以前と同じように髪を振り乱して介護する状態が続いていることが多く、ゆとりのある介護にたどり着くまでに時間がかかる。知識不足や間違った情報から右往左往していることも多く、“つどい”の限られた時間だけでは、私たちの持っている情報をきちんと伝えることが難しい。さらに単発の参加では、サービスの利用を勧めてもその効果を十分理解できるところまで伝わらないので、その気になって踏み出すまでに時間がかかる。企画側としては本音でしゃべり合えるようになる仲間を見つけてほしいのだが、そこまで至らない。要するに“つどい”では、スタッフは受身でしか介護家族に関われないし、学習の機会も限られてしまうのだ。

夫を介護しているFさんは、“つどい”に参加し始めてからサービス利用に至るまでに5年もの時間を費やし、要介護度2になってようやくサービスを利用しようという気持ちになった。それまでは、何度サービス利用を勧めても「いやいや無理です」の一点張りで、毎日徘徊について回る生活を続けていた。認知症の人の介護者のなかには、Fさんのように、とことん困ってからでないとサービス利用につながらない方が多くいる。

介護者が精神的に最も大変なのは、認知症の初期から中期(とまどい~混乱期)である。この時期をいかに短期間に乗り切るかが勝負になるが、やっかいなことに、自力では多くの人が5~10年かかる。そんなにかかっていたら、認知症の本人も介護家族もお互いが苦しいだけだ。介護者の気持ちにゆとりがないので、上手な対応も難しい。

これらを解決できる方法はないかと考案したのが「家族支援プログラム」である。長くかかる混乱期をなるべく早期に抜け出し、自分なりの介護を行えばよいという開き直りの境地にたどり着けるようにと、これまでの家族会活動で培った支援のノウハウをすべて盛り込んだ。月1回で計6回。じっくり関わる時間がほしいので、半年間連続で、同じメンバーで受講してもらう。「いいねえ、やろうよ」と世話人会でもすぐに賛同を得、平成15年3月、第1回の家族支援プログラムが始まった。このあとこの講座はさまざまな副産物を産み、愛知県支部にとっても介護者にとっても、スーパープログラムとなっていくのである。

<研究班立ち上がる>

「家族支援プログラムの効果測定ってできない?」「できるよ。ちょっと考えてみるよ」と講座の実施とともに立ち上がったのが“家族の会愛知県支部の研究班”である。副代表の益田先生が所属していた名古屋大学老年科の医師や院生、日本福祉大学の院生などのメンバー10名ほどで構成し、毎月1回、夜7時頃から研究班会議が開催されることとなった。どうして効果測定などと言い始めたのか?その必要性を感じたからである。平成12年に認知症介護研究・研修センターが国内3ケ所(東京・仙台・大府)に設置された。家族の会として大府センターに関わることとなり、これまでまったく知らなかった研究発表などを聞く機会をいただいた。

“△×◇※・・・”??何かが違う。認知症ばかりで、その中にどうも生活が見えない。なぜ介護家族のことは入っていないのか。偉そうに、と研究者の方からは叱られるかもしれないが、どうもしっくりこないのだ。研究の分析結果が、厚生労働省の認知症施策に反映されることを考えると、認知症介護において、介護家族への支援の重要性や必要性が研究され、数値化されることは大切なことである。そこが取り組まれていないということは……家族の会で交流会や電話相談などさまざまな支援の取り組みをどんなに頑張ってやっていても、外部からみると「ボランティア頑張っていますね。ご苦労さん」で終わってしまう話なのだ。ちょっと待って!と言いたい。家族の会でやっている活動は、そんなに軽いものではない。しかし、現実的に私たちがやっている活動を客観的に証明するものは何もないし、家族の会(本部)自体も自分たちの活動について分析することには取り組んでこなかった。「ボランティアご苦労さん」で終わらせないためにも、私たちが研究者の人たちと同じ土俵に上がって、自分たちの手で、実証していくことが大切だと感じた。幸いにも、愛知県支部は人材の宝庫で、数名の研究者が会員として活動していたので、「家族支援プログラム」のスタートとともに家族の会の研究班が動きだしたのである。

“家族支援プログラム”は、これまでの活動で培ってきたノウハウをプログラム化した講座である。私たちが蓄積した経験は、ある意味プロをもしのぐと思っているが、講座の効果測定を行なうことで、私たちの介護家族支援への評価も高まることを期待している。

<家族支援プログラム1期生>

平成15年3月、第一期の家族支援プログラム受講が始まった。初めてのことでスタッフにも緊張感が漂う。受講者が介護している相手は配偶者5名・実父母5名・義父母5名の計15名で、偶然にも一期生は講座のモデルケースとも言える構成メンバーとなった。
このプログラムは、6回参加して全体が見えてくるように構成してある。欠席しないで6回すべて参加した人と、4回の人ではまったく様子が違ってくる。たかが2回と思われるかも知れないが、大きな差が出る。ピアカウンセリングを活用して、もともと介護者が持っている力を引き出す講座でもあり、受講者数とその参加率は講座の効果に影響する。幸いにも6回、ほぼ欠席なく参加していただくことができた。

講座1日目は昼食をはさんでの交流会であるが、午前中にざっと皆さんの自己紹介をしていただく。お互いの状況が分かることにより、お昼は自然と賑やかにおしゃべりが続いている。「こんなにゆっくりお昼を食べたのは、久しぶりだわ」と言われる人もいる。毎日バタバタの生活なので、些細なことが嬉しい。だからこそ昼食は“美味しいもの”にこだわって準備している。“同じ釜の飯を食べる”と昔から言われるように、この講座でも食事は大事な小道具である。不思議なことに、昼食後からの場の雰囲気はさらになごやかになって、同じ介護者同士、楽に話ができ、本音も言いやすい。「ここだけの話」がたくさん出てくるので、仲間意識やつながりも深まってくる。大変なこともここに参加すれば笑って話せる。どんどん回数を重ねるごとに、皆さんの顔が明るくなってきた。アッと言う間に半年間は過ぎ、無事に講座も最終日を迎えた。

「このまま終わりたくない」「引き続き講座を受講したい」「みなさんとまだお話がしたい」、なんと受講者の皆さんから声が上がったのだ。「じゃ、皆さんで集まれる会を作りましょうか?」「やろう、やろう!!」「講座のようにこちらで全部やるのは、無理があるので、皆さんにもお手伝いをお願いしたいのですが・・・」「ハーイ!私いいですよ」「〇〇さんがやるなら私もいいですよ」と、お世話係もすぐに決まり、「桜の会」という講座修了者のための会が立ち上がった。
現在も桜の会は、家族支援プログラム修了者の会として存続している。今は、当初の定例から、年2回の開催に形を変えて、午前中は交流会、午後からは講師を招いての勉強会を行なっている。介護が長期間になってくると困りごとや相談ごとも変わってくるので、次のステップでの知識を得られるように取り組んでいる。

当初、混乱期の介護家族をどう支えるのか……と思って作った講座なので、「桜の会」の発足までは想定していなかった。それだけに私にとっては、とても嬉しい副産物となった。たった半年間で、まったく顔色がかわり、気持ちのゆとりがうかがえるご介護家族、そして立ち上がった交流会。その様子に、「家族支援プログラム」の手ごたえを感じた。その後、この講座は思った通り、各地で素晴らしい効果を上げることになる。しかし、まさかこの講座が、この先愛知県支部にとって非常に重要な役割を担うこととなるとは、このときはまったくわからなかった。

 


 

2012年3月に中央法規から出版した著書「介護家族をささえる」より、愛知県支部    の活動の歴史を連載します。

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