若年性認知症の特徴と病気とともに生きる方々の現状(2020年 2月会報より)

2020.04.13会報

山口喜樹認知症介護研究・大府センター
愛知県若年性認知症総合支援センター
山口喜樹

新しい価値観・サポートへの序章

この連載も今回が最終回となりました。若年性認知症の特徴、就労中に発症した場合の仕事を続ける支援や退職後の福祉的就労、交流会などの気の置けない仲間たちとの交流や介護事業所でのケア方針など、適切な支援を適切な時期に受けていただくことの重要性を伝えてきました。

若年性認知症とともに生きる人やその家族と接していると、ニーズに合った支援を提案することの大切さを感じます。「何を当たり前のことを・・・」と感じる方もあるかもしれませんが、現状、ニーズに合ったサポートを歪めてしまっているのが実は専門職ではないかと思っています。

例えば、もの忘れなどに悩んで医療機関に行くと、医師が「アルツハイマー型認知症ですね。治りません。」と告げます。普通のことと言えばそうなのかもしれませんが、「私は治しません。」と聞こえるようで、ご本人もご家族も大きなショックを受けます。「治らない病気」とともに過ごすために一番大事なことは、ご本人やご家族に希望を持ってもらうことだと思っています。「病気の受容のため」と専門職は言いますが、そういった望みを診断直後に捨てさせてしまうことはどうなのでしょうか。器質的な変化は止められなくても、心のもちようや暮らし方の工夫で症状の進み方が変化することを伝え、本人にも家族にも、病気とともに生きる準備をしていただく必要があると思います。

「認知症は治らない」そうかもしれませんが、認知症で困るのは、症状そのものというよりは、それによる生活のしづらさです。記憶障害や見当識障害で道に迷ってしまう人にヘルパーの同行や家族の付き添いを勧める専門職がいます。「出来ないから誰かが介護する」確かにそうかもしれませんが、スマートフォンや写真、目印を記したメモなどの活用によって道に迷わなくなれば、認知症が治ったと言っていただくこともあります。ご本人やご家族は、生活のしづらさを改善するヒントやアドバイスを強く求めていると感じます。

認知症の診断を受けると医療機関の相談職からは、「役所の高齢福祉窓口へ行って介護認定を申請してください」と言われることも多いようです。そもそも高齢者ではなく、尚且つ就労中の身で介護認定を受けるということは何を意味するのでしょうか。就労しておらず、症状も進んでから医療機関で診断を受ける高齢者とは当然、応対が異なります。

「仕事を続けたい」「退職後も働きたい」と多くの方が言われます。自分のためだけではなく「家族のために働く」これも多くの方から聞く言葉です。認知症の人と一緒にハローワークへ行きます。怪訝そうな顔で「認知症の人が働けるのか?」と言われたこともあります。役所の障害福祉窓口でも同じように「どうして認知症の人を連れてきたのか?」と言われたこともあります。ご本人やご家族が辛い思いをしないように、治療と仕事を両立するためのサポート機関や、障害者手帳を取得して新しいノルマで働くことへの理解を広げる必要性を感じます。

介護サービスの専門職からは、「若年性認知症の人は大変だ。ご本人もご家族も上手くケアできない。」と言われることも少なくありません。高齢者とは利用目的が異なることが多く、それを満たさないとケアが空振りするため、社会参加活動など、本人にとって介護サービスを意味のあるものにすることの理解を広げる必要性も感じます。

「若年性認知症です。」ご本人とご家族は突然、混乱の中に置かれてしまいます。勇気を持って発信したSOSに対しては、少なくとも出会った専門職がご本人やご家族のニーズを踏みにじるようなことがないようにしなければなりません。

専門職だけでは変わらない(変えられない?)認知症への固定化したイメージを、ご本人やご家族が社会を巻き込んで変えていっている気がします。ニーズに沿ったケアは、専門職の中でも今はまだまだ突拍子もないものとして取り扱われてしまっています。都度、専門職や社会認識の壁にぶち当たってしまうことは誠に申し訳ないことです。しかし、ご本人やご家族に理解を示した中での新しい関わり方や活動は、やがて高齢者のケアをも変えていく大きなものにつながっている気がするのは、若年性認知症のご本人とご家族に寄り添っている人に共通する感覚だと思います。

6回に渡る連載、丁寧にお読みいただいたことに感謝申し上げます。