病院の相談窓口から (2020年 10月会報より)

2021.02.07会報

国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター
医療福祉相談室(精神保健福祉士)
高見 雅代 

認知症が終末期になったときを考える

前回は、認知症が重度になった時のことを書きました。次は、終末期のことについて書いていきたいと思います。終末期のことは、私たち医療者にとってもつらい事柄です。そのつらい思いを抱えながら、専門職として患者さんや家族と向かい合います。
それゆえに、当事者であるご本人やご家族、ご親族の方のお気持ちは、計り知れないものがあります。ですので、終末期のことは、少しずつ丁寧に書いていきたいと思います。

今でこそ、「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)=今後の治療・療養について患者・家族と医療従事者があらかじめ話し合う自発的なプロセス(過程)」という言葉ができ、終末期を見据え、目をそらさず、向かい合い話し合うことが必要といわれるようになりましたが、日本では古くから、終末いわゆる「死」は忌むべきものであり、日常会話のように気軽に語ることはタブー視されてきた文化があります。終末期に対する取り扱いが変わってきた今でも、人にとって終末期はつらく悲しいものであることには変わりありません。向かい合う姿勢を考えなおすことは必要なのだと思いますが、それに伴う気持ちまでを無理に変えていく必要はないと考えます。認知症の終末期についての記事も、今ではいろいろなところで目にするようになりました。それゆえにつらい思いをされている方もいらっしゃるのではないか、とも思います。そんな今では目新しくない話題ですが、医療的視点から少しはずした視点で書いていきます。つらいお気持ちになられる方は、今はここまでにされるのも、ありだと思います。

終末期とは、一般的に「病気が治る可能性がなく、数週間~半年程度で死を迎えるだろうと予想される時期」と定義されています。そしてその時に行われる医療や看護は終末期医療、ターミナルケアと呼ばれます。その目的は治療や延命ではなく、死を目前にした患者の身体的・精神的苦痛を和らげ、ご家族やご親族の心理的ケアを行うことで、生活の質を向上させることです。

今回参考にした文献は、「認知症の症状が進んできた段階における終末期ケアのあり方に関する調査研究事業報告書」(平成30年3月公益社団法人日本精神科病院協会高齢者医療・介護保険委員会)です。本報告では、3つの県の家族の会の会員の方10家族に、終末期についてのインタビュー結果が掲載されています。終末期のことでどんなことを考えたらよいか?ほかのご家族の方はどのようにされたのか、を知りたい方には、とてもよい参考になると思われます。

報告書によると、調査を行った委員の先生方は、「主治医の先生は、終末期の医療について患者さんのご家族に一生懸命説明をしていると思われる。しかし家族の方は何年も通っている病院、かかっている先生でも、『聞きたいけど聞けない』『言いたいけど言えない』と思っており、その思いが『何も説明をしてもらえなかった』というギャップを生むのではないか」「『説明と同意(インフォームドコンセント)』だけにとどまらず、医療者と家族の十分なコミュニケーションが必要と考えられる」等の意見を述べられています。「家族が聞かないからいけない」「先生が言わないから悪い」のではなく、何を伝え、何を聞けばよいか、そしていつどのようにして誰と話し合えばよいのかは、ご家族と同じように医療者も悩みます。必要なのはつらい気持ちと今の状況を共有するための「十分なコミュニケーションをとることを『意識する』」ことだと感じます。限られた時間の中では簡単にできることではないことは十分に承知の上で、です。

次の回では、終末期の課題である①食べられなくなったとき、②病気の治療、③終末期に向けた、本人の意思確認・意思決定、について触れていきたいと思います。それまで皆様お元気でお過ごしください。