【連載】介護家族をささえる (2020年6月会報より)

2020.09.28会報

<NPOの立ち上げ >

外部評価を行うために、愛知県支部でNPOを立ち上げる準備が本格的にはじまった。この時はとにかく時間がなかったこともあり、NPOの役員は家族の会のスタッフがメインになり、あわてて発足準備にはいった。NPOの発足は、その団体の理念や定款をつくることから始まる。思いはあっても、それを文章にするのにずいぶん苦労した。発足には、初期活動を行うための資金が必要となるが、もともとボランティア活動に集まっている人達なので、個々にそれほど多くのお金も出せない。発起人1人3万円の出資とした。最低10人の社員(会員)があれば、NPOは立ち上げられるので、会員はぎりぎり10人。30万円が初年度のNPOの資金となった。平成16年4月29日、東海市文化センターの一室を借りて、発足総会を開催した。初めてのことに戸惑いながらも新しいことが始まるのだと思うと、なんだかわくわくする。

5月下旬、(株)三菱総合研究所から電話が入った。経済産業省の市民ベンチャー事業を請け負っている事務局だ。申請した助成金のヒヤリングをするので中部経済産業局に出向いてほしいとのことだった。初めてのヒヤリング、何を質問されるかわからないが、これで獲得の確率は高くなったなと思いながら出かけた。

ヒヤリング会場には選考委員の方が数名並んでおり、まるで入学試験か就職の面接のような“厳しい”オーラに包まれていた。ひょっとしてこの助成金は大変かも…と頭をかすめた。何を聞かれてどう答えたのかは全く覚えていないが、このヒヤリングで、ある程度はふるい落としをされたようだった。もしこれが通れば、外部評価立ち上げにかかる費用は随分助かる。家族支援プログラムもたくさん実施できる。少しだが給料も出せるようになる。ひょっとしたら、ひょっとしたらと待っていたら、採用通知が届いた。“やったあ!!”ともろ手を上げて喜びたいところであるが、実施は8月~3月までととても短い。この間で594万の助成事業を実施しなくてはいけない。他に福祉医療機構の助成金500万円もあり、とんでもないことになった。幸運というかなんというか、しかしそう簡単にいただけるものではないので、強運ということにしておこう。しかし、そこにはとんでもない忙しさが待ち受けていた。

<無我夢中>

発足集会、県へのNPO申請登録、法務局への登記と、NPOが動き出すまでにはたくさんの過程を経なければならない。NPO立ち上げのマニュアルに沿って県への申請書を作成するが、書類も多く、これまでやったことがないので作成に時間もかかる。言葉一つにも修正を求められ、初めてのことは何でも大変だと思った。しかし、やれば覚えられるので無駄ではない。

8月法務局の登記を終えて、NPOは「特定非営利活動法人HEART TO HEART」として正式に法人格を持つことになった。登記は終わったが、職員を雇用することになるので就業規則や給与規定なども作成しなくてはいけない。これらのことと並行して、助成金事業の実施を進めなくてはいけない。二つの助成金により、家族支援プログラムは少し規模を拡大して実施することになった。県内8ヵ所、県外5ヵ所である。助成金の目的別に実施地域を分けたが、さすがに13ヵ所はきつい。1ヵ所に6日かかるので、78日間、拘束される。家族支援プログラムのマニュアルビデオも作らねばならない。さらに外部評価の調査機関の立ち上げの準備もしなくてはいけない。評価機関としての理念を考えるだけでも、何日も担当の人と夜なべで議論した。

調査の価格は、評価機関が自分のところで自由に決められる。他の機関の様子はまったくわからない。いったいどれだけのグループホームからの依頼がくるのかも皆目見当がつかないため、調査費の設定は難しく、何度も試算を繰り返した。

経済産業省の助成金では途中で2回、委員の前でのヒアリングに応じなければならない。「何を売りにするのですか?評価の価格競争にはどうやって対抗するのですか?思いだけでは事業はやっていけませんよ!」と手厳しく指摘された。さすがにベンチャー事業の助成金だけあり、ビビってしまうほどだ。まるで起業のための英才教育を受けているようだった。特に女性の委員には、徹底的に突っ込まれた。肘をつきながら、私たちの話を聞いているのかどうかと思うような態度に内心、ムっとしたが、実は彼女こそ、私たちの申請書類の採択を強く推してくれた人物だったと後で知った。

さらに、家族の会の活動は、通常どおり実施しなくてはいけない。“つどい”・会報・電話相談のほかに、リフレッシュ旅行・講演会、リーフレット配布・レベルアップ研修、そして京都での国際会議と超多忙である。そして肝心の事務局は、まだ事務局業務初心者であった。会計だけでも家族の会・NPO・助成金二つの合計四つの会計を区別しながら記帳しなくてはいけない。特に経済産業省の助成金はとても細かく、これがこなせれば恐いものなしだ。開催前月に翌月分の実施予定と経費を出して、その月が終わった後には、実施報告と実際に予定に沿って事業を実施できたかどうか、できなかった場合はその理由なども書いて書類を提出しなくてはいけない。たった1万円の会議費も、①会議に出席する委員の人への依頼文と名簿 ②会議の議事録 ③請求明細 ④領収書 とこれだけ提出し、監査を受けて、やっと支出が認められる。

短期間で助成事業を行うため、後で困らないためでもあると思うが、毎日書類作成に追われていた。夜中までパソコン、電車に乗ってもパソコン、温泉に行ってもパソコン。家族の会の書類も含めて、とにかく時間があれば書類を作り続けていた。その合間に講演が入っていたり、さすがに寝る時間はないし、崖っぷち状態の日々に、もうダメだ!と何度思ったことか。あまり愚痴ったことがない私が、副代表の益田医師に「あ~今年は1000万円分働いた!!大変だった」とメールしたことを覚えている。


 

2012年3月に中央法規から出版した著書「介護家族をささえる」より、愛知県支部の活動の歴史を連載します。