若年性認知症の特徴と病気とともに生きる方々の現状(2019年 8月会報より)

2019.12.09会報

山口喜樹認知症介護研究・大府センター
愛知県若年性認知症総合支援センター
山口喜樹

<退職したら>

前回は、一般就労中に発症し、認知症と診断された後も「働きたい」という思いを持っている場合、若年性認知症支援コーディネーターをはじめとして、就労をサポートする各種機関や制度を利用して、そのまま就労を続けることを選択される方がおられるという話をしました。

認知症という状態を引き起こす原因疾患によりますが、進行性の疾患の場合には、そうしたサポートを受けても一般就労を続けることができなくなる時期がやってきます。退職の時期に個人差はありますが、通勤が出来なくなることで退職を選択される方が多いです。
会社から「辞めてくれ」と言われるのではなく、「仕事の区切りは自分で選択する」という方もあります。同情や辱めを受けたりしてまで働き続けることは、後の人生に影響が出てしまうと考えます。区切りをつけて、次のステップへ進むことを考えましょう。

 

退職後、勤め人だった場合には、傷病手当金を受給しながらゆっくりと療養される方もありますが、新たに働くことを希望される方もあります。そうした時に頼りになるのは、ハローワークの障害専門の窓口です。基本手当(失業給付)を受けながら、障害者雇用枠での就労先を探したり、病気を持って働ける企業の情報等を教えてくれたりします。上手く仕事にアジャストできるよう手助けしてくれるのは、障害者就業・生活支援センター(通称:ナカポツセンター)です。必要であれば、ジョブコーチ(職場適応援助者)の支援につないでくれます。

障害者総合支援法を利用して、就労継続支援事業所で福祉的な就労を続ける方もあります。一般就労を目指す就労継続支援事業A型事業所では、最低賃金(愛知県は時給900円程度)以上の賃金が支払われます。ただ、体調と相談しもう少し自由に働きたいという希望であれば、賃金は少ないですが就労継続支援B型事業所で働かれる方もあります。就労継続支援事業所A型・B型とも病気を理解した職員が配置されており、事業所によっては送迎のサービスがついていることも認知症の人にとって心強いことだと思います。

障害者の作業所と言うと少し暗く寂しいイメージを持たれる方もあるかもしれません。しかし最近は、必ずしも建物の中だけではなく、施設外就労や屋外での就労など、求職者の希望や病気の状態に合わせて仕事を選択することができるようになってきました。介護保険サービスの居宅介護支援事業所のスタッフ(ケアマネジャー)と同じように、障害福祉サービスの利用においても障害者相談支援事業所のスタッフが適した就労や支援の相談に乗ってくれます。

 

病気を持ちながら働く、いわゆる治療と仕事の両立を進めていく場合、大事なことが2つあります。

一つ目は、就業先と主治医との連携です。身体の状態や就業状況、仕事の内容など、産業医(専門的な視点から指導・助言を行う医師:規模の小さな事業所では、選任されていないところもあります)や企業の保健師・総務担当者などと主治医の間で密な情報の交換が必要です。

二つ目は、本人並びにまわりの従業員の認知症という病気の理解です。中には、病気を隠して再就職しようとされる方もありますが、そういった場合には働き出したとしても、仕事上でまた同じようなミス等が起こり、上手く続けられないケースが多いと感じます。就労継続支援事業所での福祉的な就労を含め、働く場合には、病気を自覚し、まわりに伝え、それをまわりが理解していくことが必要となります。

 

退職すると「もう働けない」と諦めたり、「でも介護を受けるような状態ではない」などと家に籠ったりする方が多いのですが、一般企業の障害者雇用や福祉的就労の場などで、再就職を果たされる方々が増えてきているのも事実です。病気とともに生きる覚悟を持って、社会参加を続けられる方のほうが、病気の進行や症状の進み方も穏やかになるのではないかと思います。