若年性認知症の特徴と病気とともに生きる方々の現状(2019年 6月会報より)
2019.09.07会報
認知症介護研究・大府センター
愛知県若年性認知症総合支援センター
山口喜樹
<就労中に発症したら>
65歳未満で発症する認知症を「若年性認知症」ということは、先回お話ししました。かつて「55歳定年」という時代が長く続きましたが、1990年代後半から「60歳定年」が一般化し、今や「65歳定年」が珍しくない世の中になってきました。定年の延長とともに女性の就労や共働き世帯も一般化してきました。ということは、性別を問わず、多くの場合、若年性認知症は就労中に発症するということになります。
かつて就労中に認知症を発症し、仕事に支障をきたすようになると「恥ずかしくて仕事を続けられない」「職場に迷惑がかかる」などと考え、自ら退職を選択される方々がほとんどでした。また、「今までの仕事が出来ないなら辞めてくれ」と雇用主から退職勧奨を受けることも少なくありませんでした。
今もまだそうした状況は続いていますが、「認知症と診断されても働き続ける」という新しい生き方を選択される方が少しずつ増えてきました。どのような形で働き続けているのでしょうか。
就労中にいままでと違う「もの忘れ」などの異変に気づいた場合、大事なことが2つあります。
1つ目は、早期に専門の医療機関を受診することです。体調不良に気づいて自ら受診できればよいですが、一定規模以上の会社であれば、他の疾患と同じように産業医や保健師から受診勧奨される場合もあります。高齢者に比べ認知機能の低下を起こす原因疾患は多様です。初期には疾患ごとの典型的な症状が出にくく、適切な治療を開始するために詳しい問診や様々な検査を受けながら原因を特定していくことが必要になります。認知症とは関係のない、想像もつかない病気が見つかることも珍しくありません。
2つ目は、専門の相談機関に連絡することです。愛知県及び名古屋市には、早い時期の支援に特化した専門職である「若年性認知症支援コーディネーター(以下、支援コーディネーター)」が配置されています。支援コーディネーターは、就労を継続するために企業に出向いたり、時期に応じた適切な制度やサービス、支援機関につないだりする役割を担います。
支援コーディネーターが関わると、以下のような支援が始まります。「働き続けたい」という本人の意思や「就労を続けても良い」という企業の意思を確認したら、配置転換や短時間勤務などの可能性を探ります。また体調面への配慮について主治医と企業(産業医等)の連絡体制構築を提案し、現場責任者や労務担当者と保健師、本人と密な連携の取り合えるチーム作りを提案します。
仕事の内容についても、認知機能の低下に配慮する具体的な配慮や作業の見直しなどを本人や企業と共に考えます。企業内ジョブコーチ(職場適応援助者)が配置されていない場合が多いので、病気や障害の支援を専門とする地域障害者職業センターのカウンセラーにつないで職業評価を受けたり、立案された支援計画をもとにしたジョブコーチによる職場適応支援につないだりします。就労だけではなく生活面でのサポートが必要な場合には、障害者就業・生活支援センターにつないでいくこともあります。
就労を継続する支援と並行して障害者手帳の取得を勧めます。認知症の場合には、身体に障害がなくても「精神障害者保健福祉手帳」を申請し、取得することが可能です。企業には、一定の割合で障害の人を雇う「障害者雇用率」という義務が課せられています。障害者雇用枠の中で働くことができれば、能力に応じたノルマに変更できますし、企業は障害者雇用率の達成や助成金等を受給する等、双方がメリットを享受できます。
就労を継続する場合、支援コーディネーターの役割はもう一つあります。それは、病気をカミングアウトし、勇気を持って働き続ける選択をした人が偏見や差別をされずに働くことができるように、職場の人々に認知症や認知症と診断された人の理解を広めていくことです。このことは、他の就労支援機関よりも支援コーディネーターが得意としていることです。