【連載】介護家族をささえる (2020年10月会報より)
2021.02.07会報
<家族支援プログラム、受託一号>
「尾之内さんですか?講演をお願いできませんか?」幸田町(愛知県額田郡)の在宅介護支援センターから電話が入った。
「どんな方が聞きに来られるのですか?」「施設を利用されている介護家族です」「もし可能なら、あと1時間ほど余分に時間をいただけませんか? 2時間私が講演するより、3時間かけて介護家族交流会をやりましょう」「では、それで計画してみます」。話がまとまり、幸田町にある特別養護老人ホームで介護家族交流会が開催されることとなった。
当日は在宅介護支援センターだけでなく、町の福祉課・社会福祉協議会など支援に携わっている関係者のみなさんも参加された。介護家族は、当初の予定人数より多く、30名近い人たちが集まり、施設の中央にあるホールに机を並べて会場が設営された。吹き抜けになっているその場所は声が響き、交流会には不向きである。これで皆さんが話せるかな…と心配になった。
ところが順番に自己紹介をしてもらい、それぞれの話を聞いているうちに、皆さんはどんどん交流会に引き込まれていった。おそらくこれほど多くの人の話を聞くことなど初めてのことなのだろう。声が響いて話が周りに筒抜けになることなど、すっかり忘れている。親戚への愚痴や施設への思いなど本音がバンバン出てきて、介護仲間の力に癒され、泣いたり、笑ったりしながら、楽しく終えることができた。「よかった」「よかった」と、皆がとてもいい笑顔で帰っていった。
「あんなに介護家族がしゃべるとは思わなかった」「普段は聞いたことがない話がいっぱいだったね」「みんないい顔で帰っていかれたし」と、周りで聞いていた支援職のみなさんにとってはカルチャーショックだったようだ。
「交流会ってすごいでしょう。もしよければ家族支援プログラムという認知症の介護家族のための講座があるので、幸田町で予算を取ってやってもらえないですか?たった半年で介護家族が驚くほど変わります。幸田町の介護家族交流会も作りましょう」。その声かけがきっかけで、家族支援プログラムは初めて行政からの委託をうけることとなった。平成17年のことである。
幸田町は、人口38,000人ほど。行政委託の場合、受講者集めは行政の担当者の責任となる。幸田町は人口も少ないが、それだけに関係者同士の連携もよく、23人もの受講者が集まった。講座の適正人数は、受講者数(15~20人)である。少し多いと思ったが、書類をみると、どなたも対象者ばかりであるため、皆さんに受講していただくこととし、講座が始まった。
第一回
初日の緊張した面持ちも、昼食を境に表情が一変、皆さんはワイワイガヤガヤ。また来月ね、と笑顔で帰っていかれた。初日の昼食は大事な小道具でもあり、受講者同士の親近感がぐっと増す。
第二回
「こんにちは、〇〇さんでしたね」とスタッフのSさんが、相手の名前を聞く前に名札を手渡した。
「え!もう覚えているの?」「うん、先月家に帰ってからみんなの似顔絵を描いて覚えたの」「え~えっ!!似顔絵??」
彼女は電話相談の1期生でもあるので、これまで長いお付き合いだが、絵が描けるなんてことは初めて知った。しかも似顔絵。もう一人、絵の得意なスタッフがいて、イラストはいつもその人にお願いしていたので、彼女はまったくノーマークだった。
電話相談のスタッフは、それぞれいろいろな趣味を持っていて、電話相談の他にもいろいろ活動している人が多い。かねてから皆さん凄いなあ…と思って眺めてはいたが、本当に人の才能はいろいろとあるものだ。思わぬところで発見できると、なんだか得をした気分になる。彼女の特技はしっかりインプットしておいた。
話は講座に戻るが、行政やケアマネなど受講募集に関わった方々には都合のつく限り講座に顔を出していただき、後ろで見守ってもらった。講座は1ケ月ごとなので、「またもうすぐあるね」と合間に受講者に声かけしていただくことで、受講者の出席率が良くなるので、ありがたい。常時18人以上の出席があったので講座に勢いも生まれ、お互いの関係もしっかり構築された。土地柄もあるのか、とてもアットホームな雰囲気である。
第三回~最終回
「これずっと続けてよね!」受講者のNさんが、行政職員にそう声をかけて帰っていった。
4回・5回もそう言って帰って行かれた。
いよいよ講座最終日。「私はまだみんなと会いたいので、このまま続けて欲しいけど、みんなはどう?」「そうだよね。ここが一番ホッとできるし……」。先に受講者から声があがった。
もともと行政との話で講座をもとにして「介護家族交流会」を立ち上げる、という目的もあったので、私たちからすると、当初の計画どおり話が進んで「やったぁ!」である。
「じゃ皆さんで協力しあいながら幸田町に介護家族交流会をつくりましょうか?」「賛成!」
「できたら、毎年交代すればいいのでお世話係が何人か欲しいけど、どなたかやっていただけませんか?」「はーい!」その場に18人残っていたが、なんとその中の5人がすぐに手を挙げた。世話役を自らやってもいいという人が5人もいたので、さすがにびっくりだった。子ども会の役員選びとは大きな違いだ。家族支援プログラム、恐るべしである。
こうして幸田町で、月1回、13:30~15:30、認知症の介護家族交流会が誕生した。平成18年2月のことである。
「……ということで、家族支援プログラムを通して幸田町で交流会が発足したんですよ」「僕も協力するよ」「え!先生来てくださるの!」
3月、本部の理事会で一緒になった、大阪の松本一生先生がそう言ってくれた。
「やったぁ!」これはいける。その時、また新しい取り組みがひらめいた。
2012年3月に中央法規から出版した著書「介護家族をささえる」より、愛知県支部の活動の歴史を連載しています。